【ちょこっとコラム】会員向けシルバーリボン通信より一部掲載します。
【ちょこっとコラム】
シルバーリボンジャパンでは、賛助会員、サポーター会員のみなさまに向けて、
月1回シルバーリボン通信を送らせて頂いております。
その中から、反響のよかった記事を一部ご紹介させていただきます。
☆☆2025年03月 シルバーリボン通信より一部抜粋☆☆
「アディクション・フォーラムで見た景色」(稲沢)
初めて配属された実習先は、アルコール依存症の男性50名が暮らす生活保護の施設だった。40年ほども前のことになる。何もわからぬまま、ただミーティング会場の隅に座って、耳を傾けているだけの実習だったが、それ以来、アディクションには、遠目ながらに関心を寄せてきた。とはいえ、ここしばらくは、いつしか疎遠になっていた。
そんな中、大学院生の一人が、薬物依存症者の回復を支援するダルクに研究テーマを設定し、ほどなく神奈川県内のダルクでアルバイトをするまでになった。そうした縁で、久々にアディクション・フォーラムなるものに顔を出すことにした。
用意していた席が足りなくなるほどに集まった人たちを前にして、アルコールを始め、薬物や買い物、ギャンブルなどのアディクトたちとご家族が、これでもかとあけすけに体験談を語っていく。笑いを誘うエピソードもあれば、しんみりと涙ぐむ語りもある。
おそらく、彼ら彼女らは、自らが作り出した幻を果てしもなく追い求めて、骨の髄までもがき苦しんできた。そして、無残にも力尽き、ついには無力さを認めて、底をつくしかなくなった。気が付くと、周りからは、一人また一人と去っており、誰もいなくなっていた。ただ、そうなってようやく仲間たちと出会うことができた。
空しい闘いに全力を挙げて必死で挑んできた者たちが、無念さを抱えながらも敗北を宣言し、にもかかわらず、今、こうしてモニターに大きく映し出されながら、笑顔でおのれを語っている。そんなことができるのは、聞き入ってくれる会場の人たちが、しっかりわかっているからであり、わかってくれていることを、語り手たちが知り抜いているからである。
自らのなすすべもない愚かさは、仲間たちに受け止めてもらえることで、そのまま愛おしさになっていくということを。どうしようもなくダメな自分であっても、仲間たちに手を引かれることで、ゆっくりと愛おしんでいくことができるようになるということを。だからこそ、今となっては、仲間たちとともに、どこまでもありのままであってよいということを。
会場にもれる笑い声と鳴り響く拍手からは、たしかなぬくもりが伝わってきた。
(代理掲載:事務局 春海)